2022.5.29 王者が王者たる所以 vsリヴァプール 21-22チャンピオンズリーグ決勝

 ここまでの両チームの道のりは対照的だった。

 我がマドリーは、ラウンド16でパリと対戦。ファーストレグで0-1ながらも完敗した。この時、まさか数ヶ月後に、マドリーがパリの地に決勝を戦いに再来しているとは誰もが思わなかっただろう。ベルナベウの魔法の夜でパリを退けると、 クォーターファイナルチェルシー相手にも延長戦に持ち込み勝利。極めつけは準決勝、最有力優勝候補であるマンチェスターシティ相手に、ベルナベウの魔法を発揮して奇跡の突破を果たした。下馬評も内容も完敗しながら、凄まじい生命力と圧倒的な勝負強さで勝ち上がってきた。

 対するリヴァプールはグループステージでアトレティコ・マドリードミランポルトの死の組を、全勝で、悠々と1位通過を決める。ラウンド16では苦しみながらも、下馬評通りインテルを退け、ラウンド8ではベンフィカを圧倒。準決勝ではバイエルンを退けたビジャレアルをしっかりと叩き、決勝まで勝ち上がってきた。

 これ以上厳しい対戦カードは、TVゲームでも組めないような茨の道を、戦術や完成度をも超えるマドリディスモで突破してきたマドリー。決勝でもあらゆるブックメーカーリヴァプール優位とオッズを発表した。

 

 

 ファイナルのメンバーは基本的にはシティ戦同様。GKクルトワ、DFラインにカルバハル、ミリトン、アラバ、マンディ、中盤トリオにカゼミーロ、クロース、モドリッチ、前線にフェデ、ヴィニシウス、ベンゼマを並べた。アラバが戦線に復帰。アンチェロッティは、準決勝のラッキーボーイ・ロドリゴではなく、フェデを送り込んだ。

 リヴァプールサイドは、GKアリソン、DFラインにアーノルド、コナテ、ファンダイク、ロバートソン、中盤にファビーニョヘンダーソン、ティアゴ、前線にルイスディアス、サラー、マネを並べた。ジョタ、フィルミーノはベンチスタートとなる。南野はバイエルン宇佐美以来、決勝のベンチメンバーとなった。

 4年ぶりの決勝での再戦は、リヴァプールサポーターの騒動で、30分以上遅れてのキックオフとなった。

 

 

 試合は決勝らしい、締まった展開ながらも、ゴールチャンスは多かった、リヴァプール側に。

 最初のチャンスは15分。右サイドへの大きな展開から、アーノルドが受けると、ペナルティ右サイドを切り込み中央へ折り返す。中のサラーが体勢を崩しながら合わせるも、クルトワが防いだ。続く16分、バイタルエリア左で縦パスを受けたマネからのボールを、サラーが得意の左足で打つも、クルトワの正面。今度は20分。再びバイタルエリア左で縦パスを受けたマネが、今度はカットイン。ペナルティエリア内でシュートを打つも、クルトワの驚異的な反応に防がれた。

 前半マドリーはまともなシュートチャンスはゼロだった。終了間際、アラバのロングボールにベンゼマが抜け出した流れで、ネットを揺らすもオフサイドの判定。リヴァプールサイドは、マドリーの持つ1発の怖さや、理屈や流れを無視した強さに肝を冷やしただろう。マドリーは厳しい流れだったが、何となく結局マドリーが優勝することになりそうだと予感した者は多かったのではないか。「万全リヴァプール」「王者の余裕マドリー」多くの者に、前半をそう総括された。あれだけ攻め込みながら、0-0。マドリーの余裕やどっしり感のみ強調された前半となったのだ。現代サッカーの最前線を走り、近年の欧州でトップの座に君臨するリヴァプール。今年も圧倒的な強さでシティと共に2大優勝候補とされているチーム相手に、押されながらもそんな評価をされるマドリーはチームを超えた何者なのか。マドリーの偉大さを痛感した。

 実際、後半ネットを揺らしたのはマドリーだった。スローインからのビルドアップで、ミリトンが右サイドに展開すると、カルバハルやカゼミーロが繋いで、右サイドのフェデへ。この時点で3対3となっていたがそこまでのチャンスには見えなかった。ところがフェデがじりじりと推進していく。勝負どころだった。リヴァプール中盤選手とは対照的に、カルバハルのみ猛スプリントをかけていた。おかげでファンダイクを引き付け、コースができた。しかしほとんどなかった。そこをフェデが通してみせた。アーノルドの足が止まるなか、 ヴィニシウスの走り込んだ所へピタリと合った。ダイレクトで合わせ、ネットを揺らした。文字通りリヴァプールの一瞬の隙だった。

 

 

 その後、63分、サラーのカットインから巻いたシュートをクルトワが余裕で防ぐ。68分、右サイドからのアーリークロスの折り返しをサラーが詰めるも、クルトワに防がれる。

 77分にフィルミーノとナビケイタを投入し、システムを変えてからさらにリヴァプールの勢いが増す。しかし、カゼミーロ・ミリトン・アラバを中心としてシュートブロックや、キーパスのカットを繰り返す。

  82分、ファビーニョのロングボールを、サラーが芸術的なコントロールで持ち込むと、右足でシュート。しかし何度目のクルトワか、右腕で止めてみせた。

 

 

 試合の締めでアンチェロッティはカマビンガ、ロドリゴ、セバージョスを送り込んだ。評価が分かれていたクロースにとっては久しぶりに完璧なプレーを見せてのフル出場だった。また、セバージョスの序列がここまで上がっていることには来シーズンも楽しみだ。

 結局、リヴァプールクルトワの壁を破ることが出来なかった。レアル・マドリードが4年ぶり、14度目の欧州制覇を達成した。

 

 

もはや必然。今のリヴァプールですらマドリーにはかなわなかった。何が劣っていたのかと問われても明確に答えられる者は居ないだろう。マドリーの今シーズンはそれが際立っていた。これまでのパリ、チェルシー、シティ戦も同様だ。説明のしようのない強さ、しかしこれをマドリディスモというのだろう。

 モドリッチベンゼマらにとって5度目のチャンピオンズリーグ制覇となる。彼らにとって初めてのチャンピオンズリーグ制覇は、セルヒオラモスが93分に得点をあげて追いついたリスボンでのマドリードダービー。その時の指揮官はアンチェロッティだった。今回、またマドリディスモはヴィニシウスやロドリゴ、カマビンガ、ミリトンらに引き継がれた。

 マドリーがマドリーである所以。欧州の王者は、現代サッカーのトレンドや、チームの完成度をも超えた、説明の出来ないマドリディスモが備わっている。今年は特に顕著に現れた。史上最も厳しいといわれる道のりを経て、チームとして成長しながら、マドリディスモを発揮し、欧州を制したマドリー。マドリーの王者としての相応しさは、世界の人々が目の当たりにしただろう。今シーズン、久しぶりにスクデットを獲得したACミランの欧州制覇7回に大差をつけて、14度目の欧州王者となったマドリーはこれからも欧州の王者であり続ける。