22-23開幕編 総括

 フランクフルトとのUEFAスーパーカップ勝利から今シーズンは始まった。カゼミーロ・クロース・モドリッチは磐石だった。ヴィニシウス&ベンゼマのコンビで点も取ってみせた。

 しかし、カゼミーロはマンチェスターUに電撃退団。 今夏加入したチュアメニがアンカーを務めることになった。1節アルメリア戦で先発するも不本意なプレーを見せる。同じく今夏加入したリュディガーも裏を取られ失点に繋がった。チーム全体が不安定なパフォーマンスながらも、アラバのFKゴールで何とか勝ちきった。

 それでも2節セルタ戦では、チュアメニがカゼミーロと異なる特徴を見せつける。優しいスルーパスでヴィニシウスのゴールをアシストした。

 続く3節エスパニョール戦、88分のベンゼマのゴールで勝ち越し、持ち前の終盤の勝負強さは今年も健在だ。

 4節は今シーズンも好調ベティスとの全勝対決だった。フェキルが開始早々に負傷退場。大きな要因だったと言える。ベンゼマの降りたスペースを使い、アラバのロングフィードから1本で裏に抜け出したヴィニシウスがクラック級のゴールを奪った。一度は追いつかれるものの、後半中盤にロドリゴの勝ち越し弾で何とか勝ち切った。

 そのミッドウィークにはセルティックとのCL開幕戦を迎えた。直近のリーグでは昨季ELファイナリストのレンジャーズを4-0で叩いた、日本人カルテットも所属する注目の一戦だった。前半圧倒的ホームの勢いをそのままにセルティックが猛攻を仕掛ける。しかし、マドリーは劣勢時も無失点で耐え切る強さがある。後半、ベンゼマとの途中交代で出場したアザールが久しぶりの躍動。全3得点に絡む活躍をみせた。フェデからヴィニシウスの先制点は見事だった。昨季CL決勝を彷彿とさせるコンビだ。ただ、この試合で負傷したベンゼマは結局最初の代表ウィーク前に復帰することはなかった。

 中3日で迎えた5節マジョルカ戦。フェデのハーフコート独走逆足ミドルなどもあり快勝した。

 CL2節ライプツィヒ戦でもフェデは躍動。劣勢の時間帯も耐え抜いて、終盤にヴィニシウスがキープし、右サイドのフェデへ。フェデは右足のシュートフェイクでDFを外すと、またも左足でファーへと蹴りこんだ。

 代表ウィーク中断前最後の一戦はマドリードダービーアザールは結局チャンスを掴みきれず、ベンゼマの代わりはロドリゴがトップ先発で務める。またまた劣勢の押し込まれるスタートだったが、最初の波を耐え抜き、先制点はマドリー側に生まれる。ロドリゴがチュアメニに預けるとそのまま裏へ。チュアメニの空間を使う、柔らかい浮き玉パスを、後ろからの難しいシュートとなったが、ロドリゴがダイレクトでネットに突き刺した。2点目はヴィニシウスの裏への抜け出しからの決定機。ポストに当たってこぼれたボールを、猛烈なスプリントで駆け込んだフェデが追加点を沈めた。結局2-1で危なげなく勝利。シーズン全勝の圧巻9連勝で最初の代表ウィークを迎えた。

 

 なんと行ってもこの好スタートの要因はチュアメニた。カゼミーロの穴を埋めるどころか、彼には無いパスセンス・ボールキープ能力を見せる。自らがビルドアップを務めることもできるうえ、モドリッチもしくはクロースのポジショニングを見ながら、ビルドアップを彼らに任せ高いポジションをとることも。もうカゼミーロのやっていた黄金トリオの連携を遜色なくこなしている。好アシストも魅力的だ。激しい玉際や高さも強みだ。もう1年目の選手に求めることは酷かもしれないが、ビックマッチでの勝負強さや強豪相手への守備の強度やポジショニングも注視したい。

 

 ベンゼマ不在でも勝ち切れるようになったことも大きい。ベンゼマ負傷という最初の試練が結果的にチームの成長に繋がった。ロドリゴの決定力向上、フェデのチームの核主力級の活躍・得点力の開花、ヴィニシウスのますます強まる得点力。モドリッチやアラバら重鎮たちの好調も確かだ。

 

 昨シーズン最悪の1年を過ごしたバルセロナは大量補強を敢行。レヴァンドフスキが圧巻の活躍でチームを引っ張り好調を維持。敗れたもののバイエルン相手にも攻勢を見せた。リーグでも、神がかるマドリーを、勝ち点2差で追いかけている。

 

 アンチェロッティ体制2年目は最高のスタートを切ったといえる。このまま代表ウィーク明けも調子を維持して、シーズン最初のクラシコを勝利し、確かなものにしたい。とはいえ長いシーズン、落ち込む時期もある。第一次政権時に連勝街道を進みながら、後半の急失速で無冠に終わった経験のあるアンチェロッティならば、どんな時期をも乗り越えられる。

21-22 全選手査定 【後半】

〈カゼミーロ〉A

 シーズン前半戦はビルドアップ面でのウィークポイントが目立った。しかし、クロース・モドリッチとのトリオの安定感は抜群だった。徐々にビルドアップ時はクロース・モドリッチが落ちるという、お決まりの適材適所の役割分担がなされるようになった。カゼミーロ不在のCL準決勝第1戦、シティとのアウェー戦で4失点を決したのは、カゼミーロの不在が響いたといえる。逆に、ラウンド16のパリとのセカンドレグでは不在ながらも影響はさほど感じなかった。得点力も落ち、昨季程まで絶対的な存在ではなくなった感は否めない。それでもやはり、彼がいるかいないかでは、特に緊張感の高い試合で守備面の安定が違う。

 

〈フェデ〉S

 シーズン初め、クロースが負傷離脱中だったため先発常連だった。しかし、クロースが戦線復帰以来、カゼミーロ・クロース・モドリッチのトリオの控え要因に。それでも、馬力のあるキックと推進力溢れる陣地回復は彼らにはない特徴で、右ウイングとして新境地を開いた。アグレッシブな前線からの守備へと舵を切った、パリとの第2戦以降、CLでは全試合先発出場。決勝でもアシストはもちろん、重要な役割を果たし続けた。来季こそはトリオに割って入れるのではないか。

 

〈ヨビッチ〉B

ベンゼマの控えとして役割を果たしきれなかった。ベンゼマとプレースタイルが異なるのはもちろん、ベンゼマという偉大な選手の代わりを務めるというのは無理難題だ。同情すらしたくなる。というのも試合に継続的に出れれば、信頼さえしてもらえれば、きっと状況も変わるだろう。12月ベンゼマが離脱した期間、特にソシエダ戦、ポストプレーも泥臭いゴールもハイクオリティだった。ベンゼマと異なり、どっしりとワントップで構えるスタイルに、周りがサテライトして対応してくれれば彼も華は開くだろうに。惜しいが来季の去就は未定だ。

 

〈ルーカスバスケス〉A

 完全に右サイドバックの控えとして、立場を確立した。アラバのゴールで勝利した、最初のクラシコでは先発出場しカルバハル不在の心配を払拭した。アディショナルタイムには結果的に決勝ゴールとなる得点も奪った。ナチョとならんで、派手さはなくともチームに必要な選手だ。献身的なプレーは来季も苦しい時にチームを助けるだろう。

 

〈ベイル〉C

 トッテナムから復帰した今シーズン初めは、ベンゼマアザールとともに最強スリートップ再来かと思われたが、負傷癖は治らず。得点も2節の1点のみ。代表での活躍を見れば、マドリーで歴史をまた作れると期待したいが、マドリーのベイルは今季まで。14年のコパ決勝の独走ゴール、14年リスボンでのデジマ決勝点、途中出場からのオーバーベッド含めた2発を叩き込んだ18年のCL決勝、、、印象的なゴールをいくつも残しながらも、どこか悲しい終わり方になってしまった。13年の加入からの彼の功績は間違いなく、マドリディスタの記憶とクラブの歴史に刻まれた。

 

〈セバージョス〉B

 シーズン後半戦に限ればもっと高い評価となっただろう。オリンピックの負傷で棒に振るった前半戦が悔やまれる。しかし、シーズン佳境で目を見張るプレーを繰り返した。優勝決定のエスパニョール戦はまさに彼の独壇場だった。CL決勝でも途中出場を果たし、準レギュラーの立ち位置を確立させた。アンチェロッティの信頼も感じただろう。チュアメニ加入決定の逆風もあり、来シーズンの去就はさらに不透明だが、絶対に残って欲しい。

 

〈ヴィニシウス〉S

 今シーズンのブレイクで、当初アザールのポジションを完全にものにした。マドリー愛溢れるプレーぶりも今後のマドリーで作る歴史に期待が止まらない。ベンゼマとのコンビは最恐で、どのチームでも分かっていても止められなかった。最高評価に至らなかったのは年明けから得点ペースが落ちたことが、成長材料といえるから。それでもなんとか終盤まで状態を維持し続けた。シティとの準決勝、リヴァプールとのファイナルでも得点を決め、ビッグマッチでも存在感を発揮した。マドリーの未来は彼にある。

 

ロドリゴ〉S

  なんと言っても、3度目のベルナベウの魔法の夜の2ゴール。90分、91分の夢は歴史的なものだった。チェルシーとのセカンドレグでも、グループステージのインテル戦でも、リーガ優勝決定エスパニョール戦でも重要なゴールを決めた。決勝こそフェデの右ウイング起用により、先発出来なかったものの、限られた時間で期待以上のプレーを見せてくれた。来シーズンはヴィニシウスとの両翼で絶対的な存在へ。

 

〈イスコ〉C

 彼が今シーズンチームに顔を出したのは、年明けの国王杯の1試合だけだ。リーグ戦でも稀に出場するもあのころの輝きはどこに。魔術師としてベルナベウをまた湧かせて欲しかった。今シーズンでマドリーのイスコも終わりだが、間違いなく彼もマドリーの歴史の1部だ。絶対的な存在となりきれないマドリーでのサッカー人生だったが、サッカー界に取ってももう一皮むき切りたい。

 

〈マンディ〉A

 攻撃面でも守備面でも魅力的な存在であり続けた。重要な局面で負傷したり、出場停止を食らったりしたことは反省点。ビルドアップにやや不安感も残った。それでも無理のきくディフェンスは、彼の身体能力があってなせるもの。シティ戦のゴールライン上のクリアはハイライトのひとつだ。来季はリュディガーの加入で、アラバの左サイドバック起用のカードも増えた。間違いなく来季は勝負のシーズンだろう。

 

〈マリアーノ〉C

 たまに得た機会も活かすことが出来なかった。リヨン時代の活躍を期待されて7番をつけた頃からくすぶり続けている。ラッキーボーイ的な活躍をしてくれそうな雰囲気はあるのだが、、来季の去就は未定だ。

 

〈カマビンガ〉S

 マドリーで過ごす初年度とは思えなかった。派手なベルナベウデビューを飾り、インテル戦でクオリティを見せつけたが、カゼミーロ・クロース・モドリッチのトリオが再完成すると、再びベンチ要因に。それでも、リーガ・ソシエダ戦のミドルを叩き込んだあたりから、自信を取り戻し、アグレッシブなプレースタイルへと舵を切った後半戦は頭角を表した。シティとのセカンドレグ決勝点、ベンゼマのPK獲得シーンでは、推進力あるドリブルで影からゴールを演出した。チェルシーとのセカンドレグでも前線でインターセプトをし、セミアシストを記録するなど、重要な選手だった。1年目ながら、準レギュラーの座を確立させた19歳は恐るべき才能だ。来季はフェデとともにトリオに割って入る存在に。

21-22 全選手査定【前半】

レアル・マドリードは今シーズンリーガとCLの二冠を達成した。

アンチェロッティの招聘、ラモス&ヴァランの退団、など変革期を迎えたマドリー。トップチーム登録全選手のシーズンを通しての出来栄えをSS、S、A、B、C、Hの6段階で評価してみたい。

 

 

アンチェロッティ監督〉SS

 まずチームづくりとしてメンバーを固定した。特に、シーズン前半の11月~12月に及ぶ強豪との過密日程の連戦を全勝で乗り切った。スーペルコパも制した。この段階ではチームはリトリートし、引いた守備から流れを作るチームだった。ヴィニシウスのスピードを活かしたカウンターや、モドリッチやクロースなどベテラン選手たちの無駄な疲労の少ない効率的な戦術だった。

 しかし、国王杯の敗退やCLラウンド16ファーストレグのパリ戦において、この戦術が立ち行かなくなった。

 思い返されたのは第1次政権時のデジマを達成した翌年、シーズン前半戦に連勝記録を重ねながらも、後半戦の急失速で無冠に終わり、解任された14-15シーズン。

 そこでの経験からかアンチェロッティはパリ戦後、大胆なチーム改革を行った。直後のリーグ戦からリトリート守備からゲーゲンプレス守備に、180°シフトチェンジ。パリ戦直前のリーガ・ソシエダ戦までに見事に仕上げて見せた。パリとのセカンドレグ、歴史的な逆転劇を見せ、前線からの激しいプレッシングというスタイルでそのまま二冠を達成した。後半戦はインテンシティの高いプレースタイルに転向したことで、モドリッチ・クロースらよりも、フェデ・カマビンガら若手の活躍も目立った。

 また、シーズン前半戦の引いて守って、守りきれるチーム力は、CL決勝で発揮された。シーズン途中に柔軟で大幅なスタイル変革をしながら、シーズン終盤に向かうにつれて、チームを成長させ、勝利に導いた手腕はさすがの一言だった。

 五大リーグ制覇・CL最多優勝という偉業を達成した、同監督には最高評価を与えたい。

 

クルトワ〉SS

CL決勝が顕著だったが、CL・リーガ・スーペルコパ全てにおいて、彼のおかげで幾度も失点を免れた。彼がいる限りマドリーの堅守は保障される。言葉が見つからない程の充実のシーズンだった。最高評価に異論はない。

 

〈カルバハル〉A

やや調子の波があったシーズンだった。彼が調子が良ければチームも調子が良い。不用意なパスミスも目立った。しかし、この選手はとにかく無理が効く。数的不利でも、苦しい状態でも何とかしてしまう。大事なところでは活躍してくれる。怪我がなかった今シーズンは高評価に値するだろう。

 

ミリトン〉S

今シーズン、ヴィニシウスのブレイクの影に隠れながらも、伝説的センターバック退団の穴を埋める以上の活躍を見せた。対人も、ビルドアップも、勝負強さも、得点力も申し分ない。最高評価に至らなかったのは、CLでいくつかふわふわとしたプレーが見えたからだ。パリ戦、シティ戦ともに足を痛めながらも、気合いで奮い立たせる姿は印象的だったが、どこか危なっかしさを感じた。しかし、今シーズンのマドリーの成功は彼なしには語れない。

 

〈アラバ〉S

 フリーでの加入だったが、これ以上ない補強だった。DFリーダーとしてミリトンと最強のコンビを形成するだけでなく、ボールの配給や精神面でもチームの柱になった。クラシコでの得点は、彼の充実のシーズンの始まりを告げる大きな花火になった。終盤戦、最も重要な時期に負傷離脱で欠けてしまったのは惜しかった。来シーズンはリュディガーの加入によって、左サイドバックでの起用増加も見込まれる。来季も椅子を掲げて欲しい。

 

〈バジェホ〉H

ほとんど出場機会はなかった。リーガ終盤ターンオーバーで起用されるとナチョらと遜色ないプレーを見せた。シティ戦でも終盤、満身創痍のミリトンとの交代で僅かに出場した。貴重なバックアッパーだったが、アンチェロッティの信頼はないといえる。評価はなし。

 

〈ナチョ〉SS

今季マドリーのCBを支えたのはミリトン・アラバだけではない。どちらかが抜ければ完璧に穴埋めをし、 サイドバックも務められる。パリ戦では左サイドバック、シティ戦ではセンターバック。リュディガーの加入が鬱になるほど、来シーズンも起用を期待したい選手だ。主役になれないながらも、マドリーを影から支えるナチョは、役割を完璧に果たしたといえる。最高評価以外は与えられない。

 

アザール〉C

 序盤はベンゼマ・ベイルと強力スリートップでスタートしたものの、結果も残せず、負傷癖も治らず散々なシーズンに。完全にヴィニシウスの陰に隠れてしまった。来シーズンの活躍を宣言した彼に期待を込めての最低評価。

 

〈クロース〉A

シーズン後半戦、カマビンガ・フェデの台頭もあり、不要論が囁かれる。アンチェロッティも途中交代要因の常連とした。しかしながら、正確なフィードや、モドリッチとの連携はシーズンを通して見せていた。アグレッシブさや、推進力は彼に求めるものではない。低い評価には値しない。CL決勝ではフル出場で自身の価値を証明してみせた。来シーズンもスタメン陥落が危惧されるが、やすやすとは譲らないだろう。

 

ベンゼマ〉SS

今シーズンのバロンドーラーだ。チームの得点源となるだけでなく、試合づくりにも大いに貢献した。ヴィニシウスとのコンビも見事で、34歳にして最高のシーズンだった。CL・リーガで得点王、アシストランキングでも上位に名を連ね、実質のゲームキャプテンも務めた。クラブの顔であり、チームの要。まさに現在世界最高のプレイヤーだ。

 

〈アセンシオ〉B

結果こそ残すものの、評価は上がらない。それは強豪との重要な試合で結果を残せないことが一因だろう。2試合とも先発したパリ戦とのラウンド16では、特に最高の試合だったセカンドレグ、1人乗り切れなかった。退団が噂されるも、リーガ2桁得点や、理不尽ミドルは来シーズンも期待したい。圧倒的な成績を残し、強豪とのビックマッチで主役になることが必要だ。

 

〈マルセロ〉B

 左サイドバックはマンディ、ナチョに次ぐ3番目の立ち位置で、出場機会こそ少なかったものの、技術の高さは見せつけた。リーガ優勝決定のエスパニョール戦では今季の退団が惜しくなるような、美しいプレーだった。チームのキャプテンとして、ビッグイヤーを掲げ最高のシーズンで、マドリーとの最高のストーリーを締めくくった。

 

〈ルニン〉H

 クルトワの陰に隠れながらも、出場したリーガではPKストップの活躍を見せた。若く将来のマドリー守護神として期待できるが、出場経験も必要だ。レンタル移籍が既定路線か。

 

2022.5.29 王者が王者たる所以 vsリヴァプール 21-22チャンピオンズリーグ決勝

 ここまでの両チームの道のりは対照的だった。

 我がマドリーは、ラウンド16でパリと対戦。ファーストレグで0-1ながらも完敗した。この時、まさか数ヶ月後に、マドリーがパリの地に決勝を戦いに再来しているとは誰もが思わなかっただろう。ベルナベウの魔法の夜でパリを退けると、 クォーターファイナルチェルシー相手にも延長戦に持ち込み勝利。極めつけは準決勝、最有力優勝候補であるマンチェスターシティ相手に、ベルナベウの魔法を発揮して奇跡の突破を果たした。下馬評も内容も完敗しながら、凄まじい生命力と圧倒的な勝負強さで勝ち上がってきた。

 対するリヴァプールはグループステージでアトレティコ・マドリードミランポルトの死の組を、全勝で、悠々と1位通過を決める。ラウンド16では苦しみながらも、下馬評通りインテルを退け、ラウンド8ではベンフィカを圧倒。準決勝ではバイエルンを退けたビジャレアルをしっかりと叩き、決勝まで勝ち上がってきた。

 これ以上厳しい対戦カードは、TVゲームでも組めないような茨の道を、戦術や完成度をも超えるマドリディスモで突破してきたマドリー。決勝でもあらゆるブックメーカーリヴァプール優位とオッズを発表した。

 

 

 ファイナルのメンバーは基本的にはシティ戦同様。GKクルトワ、DFラインにカルバハル、ミリトン、アラバ、マンディ、中盤トリオにカゼミーロ、クロース、モドリッチ、前線にフェデ、ヴィニシウス、ベンゼマを並べた。アラバが戦線に復帰。アンチェロッティは、準決勝のラッキーボーイ・ロドリゴではなく、フェデを送り込んだ。

 リヴァプールサイドは、GKアリソン、DFラインにアーノルド、コナテ、ファンダイク、ロバートソン、中盤にファビーニョヘンダーソン、ティアゴ、前線にルイスディアス、サラー、マネを並べた。ジョタ、フィルミーノはベンチスタートとなる。南野はバイエルン宇佐美以来、決勝のベンチメンバーとなった。

 4年ぶりの決勝での再戦は、リヴァプールサポーターの騒動で、30分以上遅れてのキックオフとなった。

 

 

 試合は決勝らしい、締まった展開ながらも、ゴールチャンスは多かった、リヴァプール側に。

 最初のチャンスは15分。右サイドへの大きな展開から、アーノルドが受けると、ペナルティ右サイドを切り込み中央へ折り返す。中のサラーが体勢を崩しながら合わせるも、クルトワが防いだ。続く16分、バイタルエリア左で縦パスを受けたマネからのボールを、サラーが得意の左足で打つも、クルトワの正面。今度は20分。再びバイタルエリア左で縦パスを受けたマネが、今度はカットイン。ペナルティエリア内でシュートを打つも、クルトワの驚異的な反応に防がれた。

 前半マドリーはまともなシュートチャンスはゼロだった。終了間際、アラバのロングボールにベンゼマが抜け出した流れで、ネットを揺らすもオフサイドの判定。リヴァプールサイドは、マドリーの持つ1発の怖さや、理屈や流れを無視した強さに肝を冷やしただろう。マドリーは厳しい流れだったが、何となく結局マドリーが優勝することになりそうだと予感した者は多かったのではないか。「万全リヴァプール」「王者の余裕マドリー」多くの者に、前半をそう総括された。あれだけ攻め込みながら、0-0。マドリーの余裕やどっしり感のみ強調された前半となったのだ。現代サッカーの最前線を走り、近年の欧州でトップの座に君臨するリヴァプール。今年も圧倒的な強さでシティと共に2大優勝候補とされているチーム相手に、押されながらもそんな評価をされるマドリーはチームを超えた何者なのか。マドリーの偉大さを痛感した。

 実際、後半ネットを揺らしたのはマドリーだった。スローインからのビルドアップで、ミリトンが右サイドに展開すると、カルバハルやカゼミーロが繋いで、右サイドのフェデへ。この時点で3対3となっていたがそこまでのチャンスには見えなかった。ところがフェデがじりじりと推進していく。勝負どころだった。リヴァプール中盤選手とは対照的に、カルバハルのみ猛スプリントをかけていた。おかげでファンダイクを引き付け、コースができた。しかしほとんどなかった。そこをフェデが通してみせた。アーノルドの足が止まるなか、 ヴィニシウスの走り込んだ所へピタリと合った。ダイレクトで合わせ、ネットを揺らした。文字通りリヴァプールの一瞬の隙だった。

 

 

 その後、63分、サラーのカットインから巻いたシュートをクルトワが余裕で防ぐ。68分、右サイドからのアーリークロスの折り返しをサラーが詰めるも、クルトワに防がれる。

 77分にフィルミーノとナビケイタを投入し、システムを変えてからさらにリヴァプールの勢いが増す。しかし、カゼミーロ・ミリトン・アラバを中心としてシュートブロックや、キーパスのカットを繰り返す。

  82分、ファビーニョのロングボールを、サラーが芸術的なコントロールで持ち込むと、右足でシュート。しかし何度目のクルトワか、右腕で止めてみせた。

 

 

 試合の締めでアンチェロッティはカマビンガ、ロドリゴ、セバージョスを送り込んだ。評価が分かれていたクロースにとっては久しぶりに完璧なプレーを見せてのフル出場だった。また、セバージョスの序列がここまで上がっていることには来シーズンも楽しみだ。

 結局、リヴァプールクルトワの壁を破ることが出来なかった。レアル・マドリードが4年ぶり、14度目の欧州制覇を達成した。

 

 

もはや必然。今のリヴァプールですらマドリーにはかなわなかった。何が劣っていたのかと問われても明確に答えられる者は居ないだろう。マドリーの今シーズンはそれが際立っていた。これまでのパリ、チェルシー、シティ戦も同様だ。説明のしようのない強さ、しかしこれをマドリディスモというのだろう。

 モドリッチベンゼマらにとって5度目のチャンピオンズリーグ制覇となる。彼らにとって初めてのチャンピオンズリーグ制覇は、セルヒオラモスが93分に得点をあげて追いついたリスボンでのマドリードダービー。その時の指揮官はアンチェロッティだった。今回、またマドリディスモはヴィニシウスやロドリゴ、カマビンガ、ミリトンらに引き継がれた。

 マドリーがマドリーである所以。欧州の王者は、現代サッカーのトレンドや、チームの完成度をも超えた、説明の出来ないマドリディスモが備わっている。今年は特に顕著に現れた。史上最も厳しいといわれる道のりを経て、チームとして成長しながら、マドリディスモを発揮し、欧州を制したマドリー。マドリーの王者としての相応しさは、世界の人々が目の当たりにしただろう。今シーズン、久しぶりにスクデットを獲得したACミランの欧州制覇7回に大差をつけて、14度目の欧州王者となったマドリーはこれからも欧州の王者であり続ける。

 

 

2022.5.5 驚異的な底力 三度起こった魔法の夜 vsマンチェスターシティ

 

 ”Ontra noche magica, el rey Europa”(ヨーロッパの王 もう一つの魔法の夜を)チャンピオンズリーグのアンセムが流れる中、ベルナベウの大観衆は入場するマドリーイレブンに逆転勝利への期待を示した。

 4月29日にリーグ優勝の歓喜に包まれたベルナベウは、数日の間に決戦の舞台へと豹変した。完璧なエスパニョール戦で大満足の観衆だが、逆転突破にはそのベルナベウの観衆の力が不可欠だ。

 マドリーはカゼミーロが復帰し、クロース・モドリッチとともにトリオを形成する。CBはミリトンとアラバのコンビが組んだ。右サイドにはフェデが入った。シティはカンセロが左サイドバックに、ウォーカーが右サイドバックに復帰した。

 

 

 開始から勢いを持ったのはマドリーだった。4分には左サイドで作り、右サイドに展開。サイドチェンジのボールを受けたカルバハルがクロス。ベンゼマがフリーで合わせた。11分にも左サイドで作って右に展開。カルバハル、フェデとつないで高速クロスにベンゼマが右足で合わせた。

 しかし流れは徐々にシティに。20分にはデブルイネの空間を使うパスを受けたベルナルドシウバが抜け出してシュート。22分には左サイドのクロスから、ジェズスがミドルシュート。20分過ぎからシティに主導権を握られ、デブルイネがパスセンスを生かすシーンや、マフレズがカットインして左足を使うシーン、左右に振られ後手を踏むシーンが続く。

 それでもマドリーは、今やもうパリとの一戦目の時のようなチームではない。ボールがGKエデルソンまで下がるとプレッシングをかけマイボールにする。全体が活動量を持ち、前線からの激しいプレスで、なんとか厳しい時間を終わらせた。その後前半は、どちらも決定的なシーンは作らせず、堅いながらも、一瞬でも気を抜けばスコアが動きそうな、息つく暇もない試合が続いた。

 この試合のポイントはヴィニシウス対ウォーカーだった。速さと強さを持つウォーカーを相手にヴィニシウスは劣勢だったといえるだろう。15分裏をとりかけたがウォーカーに追いつかれる。36分モドリッチの裏へのボールを競争した際は、スピードでどちらも譲らず並走するも、タックルでウォーカーに軍配が上がる。39分にはフォーデンの強烈シュートをクルトワがセーブし、そこからテンポよくつないで左サイドに展開。良い状態でヴィニシウスが受け、ウォーカーを振り切りかけるも、なんとか食いつかれスライディングでカットされた。

 前半、支配率は五分五分。シュート数は同数だったものの枠内シュートに限ってはシティ4本に対して、マドリーはゼロ。コーナーは5対2でシティ。カードは開始早々のもめごとで一枚ずつ。9分と31分のどちらのシーンでもカゼミーロが警告をもらわなかったのは狡猾だった。走行距離において6キロ超えが3人いるシティに対してマドリーはゼロ。中盤トリオ、カゼミーロ・クロース・モドリッチ対ロドリ・ベルナルドシウバ・デブルイネの平均走行距離は5.42キロ対6.12キロと、データからも中盤はシティに制圧されていた。

 

 後半、キックオフのプレーでアンチェロッティは秘策を用意していた。アンチェロッティの秘策といえば前政権時の2014年、1-2で敗れたクラシコで、ベンゼマのヒールアシストからクリスティアーノ・ロナウドの同点ゴールのシーンが思い浮かぶ。アンチェロッティは直接ゴールにつながるクリエイティブな奇策をアレンジできる。戦術理解度の高い選手たちはそれを完璧に実行する。完璧に実行しさえすれば、得点できる秘策をアンチェロッティはここぞの大一番で用意してきたのだ。

 キックオフからボールをカゼミーロまで下げると同時に、前五人が一斉に前線へスプリント。前方へロングキックをすると見せかけて、モドリッチが急にUターン。そのモドリッチに当てて落としたボールを、クロースが右サイド裏へ正確に蹴り込む。そこへは初めから走り込んでいたカルバハルが、ダイレクトでセンタリングを折り返すと、中にはベンゼマとヴィニシウスが。マークがベンゼマに食いつき、ファーでフリーになったヴィニシウスが合わせるも、左足のシュートは枠外へ。見事なプレーだった。決まっていれば最高に気持ちよく、ベルナベウの観衆の目に焼き付いていたことだろう。

 しかし、一点ビハインドのまま。勝負の後半が再開する。ジェズス、モドリッチが枠内シュートを一本ずつ放つなど、一進一退の攻防が続く。

 後半開始して少し経つとシティのキーマン・ウォーカーに疲れが見え始める。しかし、久しぶりの実戦復帰がこの大一番でいきなりの先発だったのだから本当に恐ろしいサイドバックなのは間違いない。55分、そのウォーカーの不用意な横パスミスからショートカウンターを仕掛ける。インターセプトしかカゼミーロがそのまま運びヴィニシウスにキーパスを差し込むも、あとわずかのところでカットされた。立て続けに56分ヴィニシウスがベンゼマとのパス交換でウォーカーの裏をとる。61分にはウォーカーは座り込んでダウンした。結局71分にジンチェンコと交代した。右サイドにカンセロ、左サイドにジンチェンコを並べた。ペップは右サイドの守備をよほど警戒していたのだろう、マフレズを呼び寄せて懸命に説明する。

 また、このタイミングでデブルイネに変えてギュンドアンを投入した。そして、この数分前にクロースを下げ、ロドリゴを投入していた。中盤にはクロースのところにフェデを下げた。

 この両指揮官の交代策がこののちに生まれる全スコアに影響することになる。

 直後の73分、モドリッチ・フェデ共に右サイドに寄りすぎてしまい、カゼミーロの左横がポッカリと。そこを見逃さなかったベルナルドシルバが走り込み、ギュンドアンがパスを通す。3対3になり、ジェズスの巧みなランニングと、ベルナルドシルバが相手を引き付けたタイミングの良いパスで、完璧なシュートシーンをマフレズに与えてしまった。ニアサイドを豪快に抜かれて先制点献上。合計3-5、残りアディショナルを含めても20分程度で二点差。絶体絶命になった。

 アンチェロッティはすかさず、カゼミーロ・モドリッチを下げ、カマビンガ・アセンシオを投入した。シティもジェズスをに代えてグリーリッシュを送り込む。

 しかし逃げ切り体制のシティにゴールチャンスやシュートシーンどころか、攻撃の糸口もつかめなくなってしまう。さすがに実力・完成度の差がありすぎた。シティにはかなわない。そう思ってしまった。

 しかし、しかしだ、85分からのプレーを経て希望を感じた。85分バイタルエリアで時間を得たカンセロがミドルシュート。これはクルトワが防ぐ。86分、明らかに切れてしまっているカルバハルがグリーリッシュを捨てて、ギュンドアンに寄せると裏を足られる。グリーリッシュがドリブルで運び、ミリトンも振り切り、シュート。クルトワの脇を通過してゴールに向かうも、左サイドからカバーに入ったマンディがライン上でクリア。フォーデンに当てながらもなんとか、幸運なことに防いだ。またまた86分、左サイドフリーで受けたグリーリッシュがキックフェイントでカルバハルをはがし、左足のシュート。これもクルトワが長い左足を伸ばし、かかとに当てて何とか、なんとか防いだ。

 

 

 決定機を与えながらもギリギリでしのぎ切る。DF陣の粘りは確かにあったものの何かの力に守られている気がした。驚異的な粘り、とどめを刺されかけながらも死なない生命力。このしぶとさを見た時、あるのではないか、と期待が頭の片隅にわずかに浮かんだ。。

 

 すると90分、途中出場カマビンガがベンゼマの裏に浮き球パス。何とかベンゼマが折り返すと、走り込んだロドリゴが流し込む。合計スコア4-5。6分のアディショナルタイムが表示された直後の91分、ミリトン・ナチョを上げてのパワープレー。クルトワのロングキックをヴィニシウスがカンセロに勝ち、左サイドからセンタリングまで持ち込む。右サイドに流れたボールを何とかカルバハルまで繋いで、クロス。そのクロスはアセンシオがわずかに触り軌道が変わった。そのボールに、ロドリゴがドンピシャで合わせた。エデルソンが見送ったボールはネットに突き刺さる、と同時に発狂した。ベルナベウからも大歓声が沸く。

 敵地でのファーストレグの開始2分から、実に179分ぶりのイーブンスコア。最後の最後のギリギリで追いついた。凄まじい底力、信じられない生命力、驚異的な魔法だ。

 その後も、立て続けにロドリゴが決定的なシュートまで持ち込むなど、完全に形勢逆転。僅か2分足らずの出来事だった。マドリーベンチが総立ちでテクニカルエリアに並んで試合を見届ける。

 


 94分シティがマドリー守備陣のスキをついてフリーキックのリスタートから決定機を作るもフォーデンのシュートは枠の上。ミリトンは足を痛めて気持ちだけで守っている。集中力も何もそんなものはない。そのミリトンがゆるんだスペースを途中出場の大ベテラン・フェルナンジーニョにつかれかけた。しかし、ついさっきまで完全に切らしていたカルバハルが、集中を切らしていなかった。カルバハルの寄せもあり、フォーデンは浮した。さすがのDF陣だったが、もうマドリーには何かが宿っている。

 延長戦までのテクニカルタイム、スタジアムにはベルナベウから大観衆のチャントが響き渡っていた。アシ・アシ・アシガナ・エルマドリー!

 

 勢いそのまま、延長93分。後方からのビルドアップでクルトワのパスを受けたカマビンガが右サイドから持ち運ぶ。ジンチェンコを引き付けて、右サイドロドリゴへ。ダイレクトでの折り返しを受けたベンゼマが先に触って、ルーベンディアスのファウル。PKを獲得した。大エース・ベンゼマが確実に沈め、ついに逆転。

 

 

 満身創痍のヴィニシウス、ミリトンを下げて、ルーカスバスケス、バジェホの投入などもあったが、そのまま逃げ切った。

 三度、ベルナベウで魔法がかかった。歴史・伝統以外のなにものでもない。ヨーロッパの王には不思議な底力が宿っている。欧州サッカー史に残る大激戦は、多くの人の記憶に残り、レアルマドリードというクラブの偉大さを知らしめた。

 ここまでのパリ、チェルシーマンチェスターシティとの激動のストーリーを締めくくるために、あと一つ。近年のヨーロッパの頂点に君臨する強大なチームを倒して、14度目の欧州制覇を成し遂げなければならない。

 

 

写真はレアルマドリード公式HP

 


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2022.4.30 ベルナベウでの歓喜 vsエスパニョール

アンチェロッティはCLシティ戦の間ということもあり、大幅なターンオーバーを敷いてきた。

 

 

 アラバ、ミリトン、カルバハル、マンディ、クロース、フェデ、ベンゼマ、ヴィニシウスらを先発から外し、先発したカゼミーロ、モドリッチロドリゴらも途中で交代させた。シティ戦に向けて 最高のシナリオだった。

 しかし、この試合はそれ以上に価値のあるものだった。 引き分け以上でリーガ制覇が決まる。それも、ベルナベウでの観衆の前で決めるのは久しぶりのことだった。前回の優勝はジダンのもと、アルフレッド・ディ・ステファノでの優勝決定だった。ベルナベウ改修中、コロナ禍のなかのリーガ制覇だった。そういう意味ではホームの観衆の前で決めるということは特別で、この試合で優勝を決めることが求められた。それに4日後には、彼らに大きな力を借りなくてはならない試合が控えている。

 この試合、MVPはセバージョスだろう。前線からのプレッシング、ボールキープ、キーパス素晴らしい出来だった。来シーズンも必要な選手だ。CLでも戦力になる。モドリッチ、クロースの後釜も安泰だ。東京オリンピックでの負傷によって前半を棒に振ったシーズンだったが、徐々に存在感を増して来た。この試合初めての先発フル出場、特に終盤は無双だった。54分3点目に繋がる必死のスライディングでのシュートブロック、68分ペナルティエリア内でのピンチからボールを拾って陣地回復のドリブルとスプリント、続く69分カマビンガがインターセプトしたボールを中盤で受けると、幻の4点目に繋がる華麗なダブルタッチで相手をかわしてそのままスプリント、75分にはイスコのロストから生まれたカウンターの芽を連続スライディングでカット、これにはベルナベウも大いに湧いた。86分、87分にはビルドアップで相手を翻弄...まさに圧巻のプレーだった。パス本数はチーム最多の80で成功率は95パーセント。タックル3、ボール奪取9、ドリブル成功4もチーム最多だった。

 

 

 ダニセバージョスがMVPだが、2ゴールのロドリゴ、1ゴールのアセンシオ、カマビンガやバジェホ、マルセロも素晴らしかった。いつもの如くクルトワも完璧だった。 マリアーノも開始早々のモドリッチのアシスト殺しこそあったものの、ロドリゴのゴールのアシストや、アセンシオのゴール時は巧みなランニングで相手を引き付けるプレーと及第点だった。

 ロドリゴは左サイドの方が活き活きとしていた。もちろんヴィニシウスのいるサイドのため、なかなか左での起用は担保されないだろうが、マルセロとの左サイドコンビもまだまだ見たいものだった。ロドリゴの先制点はマルセロとの見事な崩しから、ファーサイドへのゴール。2点目はショートカウンターから個人技で股を抜いてニアサイドへ。

 アセンシオの3点目はカマビンガがボールカットし、50m以上運んでのラストパスを逆足で決めきった。4点目はヴィニシウス・ベンゼマコンビでエースが締めくくる完璧なシナリオだった。

 

 

 85分のベルナベウの大観衆のウェーブを見ると、この試合の出来がよく分かる。パス交換の度にあがる歓声や、アディショナルタイム終盤でのカンペオーネの大合唱、試合終了ホイッスル後のアラマドリード・イ・ナダ・マスの音楽に合わせて大合唱。リーガ35回目の制覇に酔いしれた。

 試合後、おちゃめなアンチェロッティを見れたのは非常に嬉しい。5大リーグ制覇を成し遂げた偉大な監督をベルナベウで胴上げできた。セレモニー後、アンチェロッティが導き、センターサークルで選手もコーチ陣も、スタッフも、ひとつの輪になって喜びを分かち合う光景は最高だった。レアルマドリード・オレの大合唱を聞くのはいつでも最高だ。筆者は鹿島とのクラブワールドカップの際、実際に生で聞いたが忘れられない。

 

 

 もう一度このチャントを聞きたい。ビッグイヤーもシべーレス広場へ。リーガ優勝の喜びに浸り、大観衆とも喜びを分かち合い、最高の状態でベルナベウに強敵を迎え入れる。その彼らもまたプレミア制覇へ1歩前進したようだ。レッズとの熾烈な競走で取りこぼしが許されない中、アウェーでこちらも4-0。

 もう一度ベルナベウで伝説をつくる準備は整った。パリ戦でのベルナベウの魔法から始まったこのストーリーを、サンドニで締めくくるために。

 

 

 

シベーレス広場

 

写真はレアルマドリード公式HP

 


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2022.4.27 明らかに理不尽なスコア vsマンチェスターシティ

 バルサがラージョにシーズンダブルを許し、リーガをほぼ手中に収めたマドリーは、4季ぶりの欧州制覇に向けて大一番に臨む。ラウンド16でパリとの歴史的なゲームをものにし、クウォーターファイナルでチェルシーとの壮絶な210分を制し、間違いなく一番勢いに乗る。

 

 

 マドリーは負傷でカゼミーロを欠く。出場が危ぶまれたマンディとアラバは先発メンバーに名を連ねた。中盤トリオはクロース、フェデ、モドリッチの三枚。アンチェロッティが最後まで決めかねていると明かした右サイドの人選はロドリゴだった。

 対するシティも台所事情は厳しく、カンセロを出場停止で欠き、カイルウォーカーをも負傷で欠く。右サイドバックの人選に注目されたが、ストーンズスクランブル出場。デブルイネも負傷を抱えながらの出場となった。

 

 試合は明らかにシティ優勢で進む。開始早々マフレズが4人ほど引きつけて、カットイン。左足のクロスに二列目から飛び出したデブルイネがダイビングヘッドを沈め先制に成功。立て続けに11分、左サイドからデブルイネが鋭いクロス。処理に誤ったアラバを反転でかわし、好調ガブリエウジェズスが追加点。1失点目は右サイドのベルナルドシウバのランニングに、対人守備が強みのマンディがつられると同時に、ヴィニシウスのプレスバックもモドリッチ・クロース・アラバの寄せも甘く、簡単にクロスまで持ち込ませてしまった。フェデもデブルイネの飛び出しについてこれず、あっさりと得点を許した。チェルシーとの一戦目でも同じパターンで、ハヴァーツに頭で決められている。カルバハルの前に、斜めのランニングで飛び込まれる形は要修正だ。2失点目は、ミリトンがつり出されたスペースに、アンカー起用のクロースが要所のコースをふさげていなかった。カゼミーロであれば、CBの空けたスペースのカバーもできていただろう。

 その後も圧倒的なシティの攻撃にマドリーはさらされ続ける。マフレズの右足のシュートはサイドネット。ジンチェンコの左足のシュートは僅かにゴール左へ。

 この時、シティが決めきれずにいる感じを観て、この試合マドリーがどうにかしてしまいそうな予感がした。

 その予感は的中する。あまりにも理不尽なゴールが決まった。ハーフandハーフのこぼれ球を中盤でモドリッチが何とかボールをマンディにつなげると、マンディはアーリークロス。ジンチェンコのマークの中、後方からのボールを大エース・ベンゼマが左足でボレーシュートをコースに流し込んだ。

 

 

 マドリーはこのあたりからプレスを変えた。それまでは、シティの完成度の高いパス回しに苦戦し、後手後手を踏んでいた。SBがアンカー・ロドリの脇でビルドアップに加わり、ベルナルドシウバも各所に顔を出す。それにデブルイネの最高質プレーが加わるという、ペップシティが何年もかけて築き上げた攻撃だ。マドリーは後方のリスク承知でモドリッチ、フェデらが果敢にボールにプレスをかけた。特にデブルイネには時間を与えないように。相変わらず中盤トリオの完成度では、シティに終始完敗だったが、ボールに行くことで、マドリーに勝機が生まれた。

 前半終了間際、ストーンズが交代し、ベテラン・フェルナンジーニョが右サイドバックに。ハーフタイムにはアラバに代わってナチョがCBに入った。負傷を押しての出場だった両選手。この一戦にかける思いは両チームともに計り知れない。

 後半22分、そのナチョがロドリの後方からのフィードの落下点を誤り裏をとられ、ミリトンも入れ替わると、抜け出したマフレズがクルトワと一対一に。左足でファーサイドを狙ったシュートは、ポストに当たる。そのこぼれ球を、フォーデンが押し込もうとするが、カルバハルがライン上でファインクリア。何とか失点を免れた。ペップも大きなリアクションで頭を抱える。「マドリー相手にこれをしては負ける」と。

 しかし、フォーデンは直後に仕事をする。右サイドで交代出場したフェルナンジーニョも素晴らしかった。53分、ヴィニシウスの縦パスをインターセプトする。そこからワンツーで抜けると、サイドの選手顔負けのボール運びで右サイド深くまで持ち込み、フォーデンに合わせた。ビルドアップ中のショートカウンターということで、カルバハルの絞りは間に合わなかった。

 しかししかし、直後の55分、フェルナンジーニョにしてやられたヴィニシウスもやり返す。3失点目と同様なマンディの縦パスを、トラップスルーでフェルナンジーニョの股を抜き入れ替わる。ハーフラインからそのまま独走で、ゴールエリアまで。中の折り返しのコースもなく、プレスバックの圧も感じながら、GKエデルソンの飛び出しもあるなかで、実がサイドネットに流し込んだ。この大一番でこの決定力。今季マドリーの攻撃を牽引する男がやってくれた。ここまでのパリ、チェルシーとの大一番でゴールという結果こそ残せていなかったヴィニシウスが決定力を見せつけた。

 

 

 シティの中盤の完成度に苦戦をしながらも、マドリーは何とか食らいつき、一進一退の攻防が続く。スコアが動いたのは74分。デブルイネの仕掛けにクロースが愛をかけ、

ファール、と見られたが好ジャッジで主審は流す。カマビンガ、クロース共に足が止まっていたが、プレーを続けたベルナルドシウバがカルバハルのプレッシャーを受けながらも左足で豪快に突き刺した。

 それでもマドリーはまだ食らいつく。フリーキックラポルトの手に当たり、PKを獲得。今月3度PKを外しているベンゼマがキッカー。直前のリーガ・オサスナ戦では、2度も左下に蹴ったPKを止められている。計り知れない緊張感の中、ベンゼマの蹴ったコースは、、真ん中にパネンカ。信じられない肝をしていた。シティはベンゼマら、マドリー選手人の経験値と、歴史、慣れ、格の違いにあっけに取れれたシーンだったのではないか。

 

 

 ホームチーム4-3のド派手な打ち合いで、シティが先勝した。しかし、試合内容、チームの完成度で見れば理不尽すぎるスコアだ。サッカーという面白い競技の最高峰の試合に、観客、両指揮官、世界中の視聴者たちがあっけにとられただろう。特に、前ラウンドで、アトレティコに5-5-0システムをひかれ、シメオネスタイルに疑問が叫ばれた試合を経ているペップは、いちサッカー人として大満足の試合だっただろう。しかし、シティの監督ペップグアルディオラとしてはあまりに理不尽な一点差。

 パリ、チェルシーをも飲み込んだベルナベウで残り90分の決戦が残っている。マドリーとしては問題ないだろう。しかし、「ベルナベウの力がある」で片づけてしまっていいのだろうか。二度あることは三度ある。ベルナベウの魔法、マドリーの歴史に頼るだけでは、シティの完成度に太刀打ちできないのではないか。既に苦難の数々を乗り越えてきたマドリーだが、間違いなく今までで一番難しいゲームになる。両チームともに、カンセロやカゼミーロらも戻ってくると予想される2ndレグ。今季一番のビッグゲームは一週間後。両指揮官の戦いは既に始まっている。

 

 


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