2022.3.10 ベルナベウの魔法 vsパリサンジェルマン

 

 アウェイでのファーストレグ、パリに圧倒されて0-1で敗戦した。今夏のマドリー加入が確実視されるムバッペに後半アディショナルタイムに決められた。手痛い失点だったが、クルトワのPKストップなど、パリに再三のゴールチャンスを作らせながら最少失点差での敗北に持ちこたえた。惨敗の試合内容から見ればポジティブな結果だろう。

 セカンドレグでの逆転に向けて、アンチェロッティ監督はチームの戦術を大幅に変更した。年末の強豪相手に連勝を重ねた際、引いて守り、守備からリズムを作り、カウンターで仕留める形で成功を収めた。しかしながらパリ相手に、まともなチャンスを作れず、ほとんどの時間を自陣で過ごし、押し込まれていた。そこで、引いて守るのではなく、前線からハイプレスを仕掛ける守備を一から構築し直した。直近のリーガ、ソシエダ戦ではほぼ完ぺきな試合内容を見せた。

 今日の試合も、前線から激しくプレッシングをかけた。出場停止のカゼミーロ、マンディに代わって、フェデとナチョが出場した。ホームの観衆の圧倒的な後押しを受け、ハイプレスでパリの出鼻をくじく。しかし、ムバッペが一本で裏をとりシュートまで持ち込むなど、徐々にマドリーの勢いはなくなっていく。マドリーにとって、ムバッペが常に脅威だった。一瞬のスキを見せたり、少しでも不用意に失えばムバッペにはやられる。体の向きやポジショニングなどの微調整、選手間の連携が今日のマドリー守備陣は高水準だった。それでもムバッペは前半のうちに1点を決めて見せた。

 カルバハルの不用意なボールロストから、ネイマールがムバッペに縦パス一本。対峙したアラバはファーのコースをしっかりと切っており、責められない。ニアのシュートだったのでクルトワには何とか止めてほしかったが、今のクルトワが決められてしまうシュートであれば、世界中どのキーパーも止めることはできない。

 残り45分で2点のビハインドという圧倒的不利な厳しい状況で、後半を迎えた。ムバッペの一本は相変わらず脅威であったが、恐れずに自分たちの積み重ねたハイプレスを実行し続けた。一瞬たりとも気を抜くことなく。すると、このハイリスクハイリターン先述のリターンが訪れる。

 

 

 ベンゼマがドンナルマに猛烈にプレッシングをかけ、ひっかけると、ヴィニシウスのもとにこぼれ、確実にベンゼマに繋ぎ仕留めた。ドンナルマは責められるべきだが、マドリーの戦術が効果を発揮した。特に後半は、ムバッペにはCBミリトンが対応し、SBはどんどん前へとプレッシングをかける。アンカーのクロースも引かずにプレスをかけて、開いたスペースはCBが押し上げる。どっちに転んでもおかしくはない、勇敢な高い集中力の必要な、ハイプレスであった。

 1点を返し、流れは完全にマドリーに。ベンゼマの惜しいヘディングシュートや、ヴィニシウスの左足でのGKとの1対1。この流れを逃していけないとハイプレスを続ける。カウンターの芽は各々が無理をして何とか食い止める。右サイドでメッシに激しいスライディングをかまして芽を摘んだモドリッチは圧巻だった。

 熱く、高い緊張感の中、一瞬も気が抜けない、息のつけない、とにかく要所要所に見どころの詰まった世界最高レベルのサッカーが展開されていた。ロドリゴとカマビンガを投入し、マドリーの勢いはさらに増した。

 75分。モドリッチのプレーには涙が出た。自陣深くの右サイドで、ネイマールの横パスをカットしたモドリッチは、とてつもない気迫のこもった推進力で2枚をはがしハーフウェイラインを超えると、左サイドのヴィニシウスへ。パリの守備陣も必死に戻り、ヴィニシウスのスピードに追い付く。ヴィニシウスがキープすると、パリDF4人が必死に食いつく。パスを出した後駆け上がってきたモドリッチがヴィニシウスから受けると、CBキンペンぺがモドリッチに食いつく。そのスペースを9番と10番は見逃さなかった。モドリッチがキンペンペの股を抜き、スペースのベンゼマへスルーパスベンゼマの思いのこもったシュートは、カバーに戻るCBマルキーニョスの必死のスライディングに当たりながらも、ネットを揺らした。涙が出た。リプレイが流れ、オンサイドを確認すると、涙がこぼれるとともに、とてつもない高揚感があふれた。これがチャンピオンズリーグなのであろう。これがマドリーの底力なのであろう。

 

 

 そしてその直後、キックオフ後のセンターサークル付近でバールを奪うと、ロドリゴから、ヴィニシウスへ。ヴィニシウスにはマルキーニョスが追いつくが、彼のカットしたボールは、マドリーのエースのもとへ。アウトサイドで流し込み、勢いそのまま逆転に成功した。いてもたってもいられなくなる感情になった。アラバのように椅子を掲げたかった。

 その後も試合後者ぶりを発揮し、ピンチを作らず、もはや空中分解状態のパリを振り切った。0-2から45分間で逆転して見せた。これがマドリーの底力だ。

 全員の勇敢で強烈なプレッシング。クルトワのファインセーブ。ミリトンの足を痛めながらの魂のこもったプレー。アラバの攻守にわたる貢献。神がかったモドリッチ。先発起用に応えたフェデのインテンティシーの高いプレー。裏をとり続けたヴィニシウス。大一番でのハットトリックを達成したベンゼマ。勇敢にハイプレスを要求・追求し続けたアンチェロッティ監督。ハイプレスの強度を後押ししたチャマルティンの観客。生涯忘れることのないであろう、圧巻の最高の試合だった。

 しかし、これはラウンド16。続くクウォーターファイナルや、週末のマジョルカ戦。そして勢いに乗るバルセロナとの伝統の一戦。マドリーはあと2つのタイトル獲得に向けて勢いに乗れるだろう。

 Hala Madrid ‼

歴史的な夜に

 


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写真はレアルマドリード公式HP